みすず書房が1970年に出したエドワード・T・ホール『かくれた次元』の日本語版には、目次の第五章に「オフィスにおけるかくれたゾーン」という小見出しがあります。第十二章は日本とアラブ圏を扱い、その「日本」の項には、「日本人の空間観念、「間」を含む空間」という小見出しが並んでいます。原著の刊行は1966年です。
10月27日、ケルンでORGATEC 2026が開きます。主催者が掲げたテーマは「From rooms to relationships: designing spaces in an ever-changing world」。人間という次元に焦点をあて、職場やコントラクトの空間で人がどう関わり合い、絶えまない変化にどう向き合うかを探る、と説明されています。部屋から関係へ。私はその出発点にある部屋のほうに、もう少し目をとめてみたいと思います。部屋は、それ自体がすでにひとつの関係です。来客用の椅子を机の主からどれだけ離すか。その寸法ひとつで、その部屋で交わされる会話の調子は方向づけられています。
日本の規則が数えるのは、一人ぶんの空気です
日本で事務所の広さを考えるとき、まず手がかりになるのは事務所衛生基準規則でしょう。1972年の労働省令で、e-Govの法令データでは令和3年厚生労働省令第188号による改正(2022年12月1日施行)が現行の条文として示されています。その第二条はこう定めています。「事業者は、労働者を常時就業させる室(以下「室」という。)の気積を、設備の占める容積及び床面から四メートルをこえる高さにある空間を除き、労働者一人について、十立方メートル以上としなければならない。」天井をどれほど高くしても、床から4メートルを超える空気は数に入りません。設備が占める容積も差し引かれます。条文は、人が常時働く部屋の空気を、ひとりずつ数えているのです。
数えられているのは「一人について」の量です。二人のあいだに何メートルあるか、誰が誰の正面に座るかは、第二条の数え方の外にあります。規則の役目は最低限の環境を守ることで、それで十分に意味があります。ただ、会話の調子にかかわる寸法は、別の物差しで測るしかありません。
その物差しの言葉を、日本の読者は持っていると思います。「間」です。ホールがその項で日本について何を書いたかは本文に譲り、私はこの一字だけを借りることにします。
机の向こう2.5メートルでは、会話が改まった性格を帯びます
ホールは『かくれた次元』で、社会距離の遠い側の段階を7フィートから12フィート、およそ2.1メートルから3.7メートルとしています。この範囲で交わされる商談や社交の会話は、近い側の段階で交わされるものより改まった性格を帯びる、と彼は書きました。そして、重要な人物のオフィスの机は、訪問者をこの遠い側に留めておけるだけの大きさがある、と続けます。標準的な大きさの机がならぶオフィスでも、向かいの椅子は、机の後ろに座る人から8フィートか9フィート、約2.4メートルから2.7メートル離れている、というのが彼の観察です。
机の奥行きを決める日には、来客との「間」も一緒に決めている。私はこの一節をそう読んでいます。部屋の主の側から見た話は、先日役員デスクと書斎について書きました。ここでは、向かいの椅子に座る側から考えています。
テーブルでは、席の角度が関係の種類を映します
会議の主催者が相手をどこに座らせるかについて、半世紀以上前の調査に一つの手がかりがあります。ロバート・ソマーが1965年に雑誌『Sociometry』で発表した「Further Studies of Small Group Ecology」です。質問紙などで席の好みを尋ねたところ、おおまかには、気軽な会話では角をはさむ席、協力では隣り合う席、各自が自分の作業をするなら離れた席、競い合う間柄なら向かい合う席が好まれました。また彼は、会話が歓迎される食堂と控えられる図書館で学生の二人組の座り方を観察しており、食堂の二人組は向かい合って、図書館の二人組は離れて座ることを選んでいます。視線の交わり方が小さな集団の配置を調整する役割も、論文で論じられています。
ここから分かるのは、あくまで好みです。会議がうまくいったかどうかを、ソマーは測っていません。それでも、会議テーブルを選ぶ段階で、角をはさんで座れる席がいくつ生まれるか、隣り合える幅があるかを見ておく理由にはなります。合意をまとめたい打ち合わせで相手を正面に迎えるか、角に座ってもらうか。その選択肢の数は、テーブルの形で決まります。
仕事場が離れるほど、話す確率は下がります
第二条がひとりずつ数えるのに対して、トーマス・J・アレンが数えたのは二人組でした。研究開発の組織で技術情報がどう流れるかを調べた『Managing the Flow of Technology』(MITプレス、1977年)で、彼は二人が週に一度言葉を交わす確率を、互いの仕事場の距離に照らしています。距離が開けば確率が下がることは、おそらく誰にとっても意外ではないだろう、と本人が書いたうえで、驚かされるのは実際の減り方の速さだと続けています。2007年、ギュンター・ヘンとの共著『The Organization and Architecture of Innovation』にも、距離とともに下がっていくコミュニケーションの確率を示す図があらためて載っています。
毎週話す必要のある二人の席が遠いなら、そのあいだに立ち寄れる場所を設けるのが、私の勧めるやり方です。コワーキング&コラボレーション家具の置き場所は、その二人の「間」のなかに探したいところです。
部屋を測る単位と、関係を測る単位
立方メートルは、一人ぶんの空気を数えます。事務所衛生基準規則第二条では、設備と床から4メートルを超える空間を除いて、労働者一人について10立方メートル以上です。
メートルは、机の向こうの客を測ります。ホールによれば、標準的な机でも向かいの椅子は机の後ろに座る人から約2.4〜2.7メートル先にあり、2.1〜3.7メートルの範囲では会話が改まった性格を帯びます。
角度は、テーブルの席を分けます。ソマーの調査で好まれたのは、気軽な会話なら角、協力なら隣、競争なら正面でした。
確率は、二人が週に一度話すかどうかを表します。研究開発の組織を調べたアレンの研究では、仕事場どうしの距離が開くほど下がりました。
ケルンに持っていく、ひとつの問い
会期中、ORGATECのなかでは働き方の文化をめぐるフェスティバルも開かれます。三つのテーマのうち、私が気にかけているのは「Empowered Experience」で、主催者はこれを、意欲と満足を高める新しい職場環境と説明しています。意欲について語るなら、人が気持ちよく話せる距離のことも同じ机の上に載せたいものです。
27日に開く会場へ、私は見に行きます。展示を見るあいだ、先ほどの四つの単位を頭のなかで当ててみるつもりです。立方メートル、メートル、角度、確率。この四つで測って選んだ部屋は、毎日そこで働く人に選択肢を残します。今日の相手には机越しの距離がふさわしいのか、角の席に移って話すほうがよいのか、その日の会話に合わせて座る場所を選べるのです。
一人ぶんの空気は、法令が数えてくれます。二人のあいだの「間」は、部屋を整える側が数える番です。
要点だけ知りたい方へ
ORGATEC 2026はいつ、どこで開かれますか? ドイツのケルンで、2026年10月27日から30日までです。主催者のテーマは「From rooms to relationships: designing spaces in an ever-changing world」です。
日本の事務所では、一人あたりどれだけの空間が必要ですか? 事務所衛生基準規則第二条は、労働者を常時就業させる室の気積を、設備の容積と床から4メートルを超える空間を除いて、労働者一人について10立方メートル以上とするよう定めています。
ホールは机の前の距離について何と書いていますか? 『かくれた次元』(1966年、日本語版はみすず書房1970年)で、標準的な机のオフィスでも向かいの椅子は机の後ろに座る人から8〜9フィート、約2.4〜2.7メートル離れていると書き、社会距離の遠い側(約2.1〜3.7メートル)では会話が改まった性格を帯びるとしています。
会議テーブルでは、どの席が協力に向いていますか? ロバート・ソマーが1965年に『Sociometry』で発表した研究では、質問紙で調べた好みとして、協力には隣り合う席、気軽な会話には角をはさんだ席、競い合いには向かい合う席が好まれています。会議の成果を測った研究ではありません。