オフィス生産性

なぜオフィスで女性は寒いと感じるのか:研究と事務所衛生基準規則から考える席の置き方

なぜオフィスで女性は寒いと感じるのか:研究と事務所衛生基準規則から考える席の置き方

2005年(平成17年)、環境省は「クールビズ」を始めるにあたって、冷房時の室温を28℃にするよう呼びかけました。同省のページによれば、この数字は建築物衛生法の施行令と事務所衛生基準規則が当時定めていた室温の範囲、17℃以上28℃以下にもとづいています。28℃はその範囲の上限でした。同じページはいま、「クールビズ」では室温の目安を呼びかけていないと書き、室温の管理で考えてほしいことのひとつとして、体感温度は人によっても異なることを挙げています。

その「人による違い」のひとつとして研究されてきたのが、女性と男性の差です。職場の同じ空気のなかで、女性のほうが温熱環境への不満を表しやすいことは、複数の研究で確かめられています。

私の読みを先に書いておきます。快適だと感じる温度そのものは、規格の土台になった実験では男女でほとんど変わりません。違ってくるのは、室温がそこから外れたときに、それぞれが感じる不快の大きさです。そして、その寒さの一部は空調の設定ではなく、机がどこに置かれ、座る人が自分のまわりの環境を少しでも直せるかどうかで決まります。

事務所衛生基準規則が書いていること

事業者に向けて事務所の温熱環境を定めているのが、労働安全衛生法にもとづく事務所衛生基準規則(昭和47年労働省令第43号)です。第5条第3項は、空気調和設備を設けている場合、室の気温が18℃以上28℃以下、相対湿度が40%以上70%以下になるよう、事業者が「努めなければならない」としています。下限はもともと17℃でした。厚生労働省のリーフレットによれば、18℃への引き上げは2022年4月1日に施行されています。

第4条はさらに手前のことを定めています。室の気温が10℃以下なら暖房などの措置を講じること、冷房する場合は室の気温を外気温より著しく低くしないこと(電子計算機等を設置する室には例外があります)。

同じ第5条には第2項もあります。空気調和設備や機械換気設備から室に流れ込む空気が「特定の労働者に直接、継続して及ばないように」し、室の気流を毎秒0.5メートル以下にすること。こちらは努力目標ではなく、「しなければならない」と書かれた義務です。室温は部屋全体の数字ですが、吹出口の風について、規則は一人の労働者の席まで降りてきています。

18℃から28℃の幅のどこに合わせるかは、それぞれの職場の判断に委ねられています。

好む温度は近く、耐えられる幅が違う

2012年、フィンランドの技術研究センターVTTのサミ・カルヤライネンは、温熱快適性と性別に関する研究をまとめた文献レビューを学術誌『Indoor Air』に発表しました。多くの研究では、暑くも寒くもないと感じる中立温度に、男女で有意な差は見られません。それでも、実験室と現場の研究の明らかに半数を超えるものが、同じ温熱環境で女性のほうが不満を表すと報告しており、不満を表す見込みの男女比は1.74と算出されています。女性は最適な温度からのずれに男性より敏感で、それはとくに涼しい側で強く、平均して個人で温度を調節したり自分で対処したりする必要が大きい。これがレビューの結論です。

中立温度の数字そのものは、デンマーク工科大学のビャーネ・オーレセンが2015年に『REHVA Journal』で示した表で確かめられます。ISO 7730などの国際規格は同じ基礎研究にもとづいており、そこでは男女が同じ人数で、同じ軽い服装(約0.6 clo)と同じ座り作業の条件に置かれていました。ネヴィンズら(1966年)とファンガーの研究を合わせると、男性488人が好んだ温度は平均25.4℃、女性488人は25.8℃。ファンガーとラングキルデの1975年の研究では、25.0℃と25.1℃です。

オーレセンはそのうえで、夏に冷房の効いたオフィスで見られる男女の差は、多くの場合、服装の違いで説明できると書いています。女性は夏に合わせて服装を変え、男性はスーツとネクタイのままだ、と。

ここで冒頭の話に戻ります。環境省はクールビズの軽装について、上着を脱いでネクタイを外すと体感温度が2℃下がるという2005年の実験結果にもとづいて設計したと説明しています。実験を行ったのは省エネルギーセンターです。目的は温暖化対策でしたが、日本はオーレセンが指摘したのと同じ変数、つまり服装に、国の呼びかけとして手をつけていたと私は読んでいます。

代謝の側から問題を提起したのは、2015年に『Nature Climate Change』に載った、マーストリヒト大学のボリス・キングマとワウテル・ファン・マルケン・リヒテンベルトの論文です。二人は、室内気候の規則が1960年代に作られた経験的な温熱快適モデルにもとづいていること、その主要な変数のひとつである代謝率の標準値が平均的な男性をもとにしており、女性の代謝率を最大35%過大に見積もるおそれがあることを指摘しました。そのために建物が、女性に快適さを届けるうえで本質的に省エネルギーでなくなりうる、とも書いています。測定の対象は座り作業をする女性16人で、同じ条件の男性は含まれていません。オーレセンが同じ年に指摘したのも、この点でした。

代謝の単位メットには、さらに古い由来があります。バーンらが2005年に『Journal of Applied Physiology』で振り返ったところでは、1メットの値は、体重70キロ、40歳の男性ひとりの安静時の酸素消費量から最初に導かれました。同じ論文によれば、幅広く多様な被験者で調べると、その値は実際の安静時酸素消費量を平均35%上回っていました。この35%は、性別の差として示された数字ではありません。

代謝をめぐる議論は研究者に任せておけます。家具を選ぶ側にとって意味があるのは、不満がずれから生まれるのなら、そのずれがオフィスのどこで起きるのかという点です。

寒さは図面の上に場所をもつ

国際規格ISO 7730は、体全体の快適さの評価に加えて、局所的な不快の主な原因を四つ挙げています。気流、頭と足首のあいだの上下の温度差、暑すぎたり冷たすぎたりする床、そして放射温度の非対称です。最後のものは、体の片側と反対側とで、まわりの面とやりとりする熱の量が釣り合っていない状態を指します。

これをオフィスの図面に重ねると、確かめておきたい場所が見えてきます。冬、大きな窓ガラスに沿った机は、片側で冷たい面と向き合います。吹出口の風が届く机では、第5条第2項が避けるよう求めている状態、つまり特定の人に空気が直接、継続して当たる状態が起こりえます。床が冷える一角では、足元だけが体のほかの部分と違う温度に置かれます。どれも禁じられた配置ではありません。ただ、カルヤライネンの結論に従うなら、ずれに敏感な人ほど、そうした席で大きな代償を払うことになる、と私は考えます。

だから、机の台数と型を決める打ち合わせで、図面の上の窓際と吹出口の下にどの席が来るかも一緒に確かめておくのが賢明です。長い天板に席を連ねるベンチデスクでは、一列がまるごと窓際に並ぶこともあります。

もうひとつは、座る人が自分で直せる余地です。女性は平均して個人での調節をより必要とする、とレビューは結論しています。そうであれば、オープンオフィス & ワークスペースを計画するとき、窓や吹出口から離れた落ち着いた区画と、風の通る区画をつくり、その日の体調で座る場所を選べるようにしておく考え方があります。床の仕上げや下地も、机と椅子の選定と同じ段階で話題にしておきたい項目です。規格が床の温度を局所的な不快の原因に数えているからです。空調の温度が同僚どうしの交渉ごとでなくなることは、ここで挙げた研究のどれも測っていませんが、それも数えてよい利点のひとつです。

室温は、快適さの外側にも届く

2019年、トム・チャンとアグネ・カヤカイテは、ベルリンの学生543人に実験室で課題を解いてもらい、室温をセッションごとに16.19℃から32.57℃のあいだで変えました。暖かい条件では女性の数学と言語の課題の成績が上がり、男性では逆の効果が見られました。女性の数学の正答数は1℃上がるごとに1.76%増え、男性の低下は小さく、統計的に有意ではありませんでした。著者らは女性の伸びを、提出した解答の数が増えたこと、つまり努力の増加によるものと部分的に解釈しています。解答数が増えても、誤答率は上がっていません。

条件ははっきりさせておきます。一回一時間の実験室での作業で、被験者は学生、変えたのは部屋全体の温度で、机の位置ではありません。認知的熟慮を測るテストには、温度の影響は見られませんでした。オフィスの一日にそのまま当てはめることはできませんが、その部屋では、室温が数学と言語の課題の成績にまで届いていました。

図面を承認する前に見る四か所

窓際 冬に冷たいガラス面と向き合う席。ISO 7730の放射温度の非対称にあたります。
吹出口の下 空気が特定の人に直接、継続して当たらないこと、気流は毎秒0.5メートル以下。事務所衛生基準規則第5条第2項です。
床の冷える一角 ISO 7730が挙げる冷たすぎる床と、頭と足首の上下の温度差。
選べる区画 ずれに敏感な人が自分で席を選べる場所。カルヤライネンのレビューは、女性が平均して個人での調節をより必要とすると結論しています。

空調の設定を決めるのは、設備と管理の側の仕事です。家具を選ぶ人に決められるのは、席の位置と、座る人に残す選択の余地です。2005年、国は上着を一枚脱ぐよう呼びかけました。次に動かすのは、机の位置です。

要点だけ知りたい方へ

なぜオフィスで女性は男性より寒いと感じるのですか? 多くの研究で、中立温度に男女の有意な差は見られません。ただし女性は最適な温度からのずれに敏感で、とくに涼しい側で強く、不満を表す見込みは男性に対して比1.74と算出されています(カルヤライネン、『Indoor Air』2012年)。キングマとファン・マルケン・リヒテンベルト(『Nature Climate Change』2015年)は、平均的な男性をもとにした代謝率の標準値が、女性の代謝率を最大35%過大に見積もるおそれがあると指摘しています。

温熱快適性の規格は男性向けに作られているのですか? ISO 7730などの規格が土台にした実験では、男女が同じ人数で、同じ服装と作業の条件に置かれ、好んだ温度は25.4℃と25.8℃でほぼ同じでした(オーレセン、2015年の表による)。一方でキングマらは、モデルで使われる代謝率の標準値が平均的な男性にもとづいていると指摘しています。

日本のオフィスの室温は何度と決められていますか? 事務所衛生基準規則第5条第3項は、空気調和設備を設けている場合、室の気温を18℃以上28℃以下、相対湿度を40%以上70%以下にするよう努めることを事業者に求めています。下限は2022年4月1日の施行で17℃から18℃に引き上げられました。同条第2項は、空気が特定の労働者に直接、継続して及ばないようにし、気流を毎秒0.5メートル以下にすることを義務としています。

寒さを減らすには、机をどう配置すればよいですか? ISO 7730が挙げる局所的な不快の四つの原因(気流、頭と足首の上下の温度差、冷たすぎる床、放射温度の非対称)を図面で確かめ、窓際と吹出口の下にどの席が来るかを席の割り当ての前に確認します。あわせて、座る人が区画を選べるよう、条件の違う場所を用意しておく方法があります。

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