日本の会社で家具の入れ替えが決まるまでには、見積書とは別にもう一枚の書類が動きます。稟議書です。総務が起案し、購買が相見積を取り、経理が承認する。その途中で必ず出る質問が「なぜ安い方ではないのか」で、見積書はこの問いに答えてくれません。当サイトの「総保有コスト(TCO)」ページは、この一枚に添えるために作りました。カタログにある二つの製品を、お客様が決めた年数で比べ、追加コストと追加効果を分けて示します。ここでは、稟議を通す側の視点で、何を入力し、どこを読み、どう添えるかを順に説明します。
稟議が止まるのは価格ではなく根拠です
相見積の安い方を選ぶ限り、稟議は止まりません。止まるのは、高い方を選ぶ理由を数字で示せないときです。ここで多くの会社が減価償却の年数を持ち出しますが、国税庁の耐用年数表にある年数は税務上の区分であって、その机が実際に何年使えるかを示すものではありません。事務机は素材によって区分が変わりますが、それは償却の話です。稟議で必要なのは実際の耐用年数と、その年数の間に発生する費用の合計です。TCOページはこの二つを、製品ごとに製造元が公表しているデータから計算します。
入力は八つ、機密情報は要りません
ページで選ぶのはカテゴリーとブランド、そして比較する二つの製品です。基準となる製品(多くの場合、安い方の見積)と、評価したい製品を左右に置きます。次に製品ごとの数量、対象となる従業員数、貴社の業種、そして期間を年数で入力します。価格や耐用年数、保証、保守の前提はカタログ側にあり、製品ページからPDFで入手できる製品パスポートに記載された製造元の公表データと同じものです。稟議に必要な条件を、ひとつずつ入力欄に写すだけです。
結果はまず「確かな費用」から読みます
最初の行は追加コストです。評価する製品が基準製品より、期間全体でいくら多く、あるいは少なくかかるか。購入、買い替え、保守を合計した金額で、ここは事実に基づく部分です。次の行が追加効果で、生産性、健康、格式、認証、カスタマイズ、欠勤の六つの区分に分かれています。その下に、差額に対する投資回収率と、差額を回収するまでの月数が出ます。差額がなければ「即時」、期間内に回収できなければ「期間内に未回収」と表示されます。最後に、正味の優位か不利かの判定が一行で示されます。稟議書に写すのは、この順番のままで構いません。
三つの前提は推定として明示されています
ページ上部の三つの数字は、確かな費用ではなく推定です。整った職場が生産性に与える影響、人間工学的なワークステーションが欠勤に与える影響、質の高い空間が働く人の会社への評価に与える影響で、それぞれ出典が添えられています。日本については、経済産業省が2016年に公表した調査で、体調不良のまま働くプレゼンティーイズムによる損失が平均15.1%に達したという数字を根拠にしています。人件費が運営コストの大半を占めるという世界グリーンビルディング協議会の指摘も、この推定の背景です。推定は費用と合算されません。別の枠に置かれ、読み手が受け入れるか割り引くかを決められるようになっています。
総務、購買、経理が読む行はそれぞれ違います
総務が見るのは対象従業員数と健康・欠勤の行です。誰が何時間その机で働くかを知っている部署だからです。購買が見るのは追加コストの内訳、とくに期間内に何回買い替えるかです。安い製品は買い直しの回数で高くなることがあり、その回数がここに現れます。経理が見るのは投資回収率と回収月数、そして入力した期間が償却の年数とどう違うかです。三者が同じ画面の別の行を読み、同じ判定に至る。稟議書に添える一枚として作った理由はここにあります。
稟議書への添え方と、設計事務所への渡し方
添えるのは四点です。入力条件(二つの製品、数量、従業員数、業種、期間)、追加コストの行、区分ごとの追加効果に「推定」と明記したもの、そして判定の一行。製品の仕様は製品パスポートを別添にすれば、製造元の公表データであることが分かります。設計事務所やデザイナーと進めるプロジェクトでは、この一枚が仕様書の裏付けになります。イタリアで製造されるコントラクト家具は初期価格で比べられがちですが、年数を入れた瞬間に比較の土俵が変わります。稟議が通るのは、価格が安いときではなく、根拠が同じ画面で誰にでも再現できるときです。添える一枚を、その根拠にしてください。
よくある質問への短い答え
TCO計算ツールの製品データはどこから来ますか? カタログの製品情報からです。実際の耐用年数、保証、保守の前提は製造元が公表しているもので、製品ページからPDFで入手できる製品パスポートと同じ内容です。お客様が入力するのは数量、従業員数、業種、期間だけです。
結果を稟議書にそのまま写しても問題ありませんか? 問題ありません。追加コストは事実に基づく部分、追加効果は出典付きの推定として、別々の行に示されます。入力条件と製品パスポートを添えれば、承認者は前提をすべて確認できます。
減価償却の年数と入力する期間は同じにすべきですか? 別のものです。償却年数は税務上の区分で、実際に使う年数ではありません。入力する期間は、その家具を実際に使い続ける予定の年数にしてください。両者の差が、稟議で最も説明を求められる点です。
推定の効果を除いて費用だけで判断できますか? できます。追加コストの行は単独で成り立ち、効果は別枠に置かれています。効果を受け入れるか、割り引くか、見ないかは読み手が決められます。費用と効果が一つの数字に混ざることはありません。