デスクを組み上げたら、最後にメジャーを天板の縁に当てます。カタログに書かれた高さと比べると、ふつう3〜5cmの差が出ます。欧州規格EN 527-1:2011が固定デスクに認める高さは740mm、許容差は上下20mmですから、カタログどおり740mmのデスクなら、3cmずれた時点で規格の外です。そして日本の厚生労働省のガイドラインは、その解説で、高さ調整のできない机を「おおむね65cm~70cm程度」とし、70cmを男性、65cmを女性に必要な高さのほぼ平均値としています。EN 527-1どおりの固定デスクは、日本の男性の目安より4cm、女性の目安より9cm高いところから始まります。この差は、座面の調整幅に余裕のある椅子と足台で埋められますし、昇降デスクや、必要なら特注という選択肢もあります。どの道を選んでも、正しい高さを確かめる場所は、組み上がった天板と、そこに座る一人の体です。
ガイドラインの本文に、センチの数字はありません
厚生労働省の「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(令和元年7月12日、令和3年12月1日一部改正)は、法律ではなく労働基準局長の通達です。机について本文が求めているのは二つだけで、高さを調整できない机は「作業者の体形にあった高さとすること」、調整できる机は「作業者の体形にあった高さに調整できること」。脚のまわりの空間は「脚が窮屈でない大きさ」であること。どこにもセンチは出てきません。
数字が現れるのは、本文のあとに付いた解説のほうです。固定の机は65〜70cm程度、高さを変えられる机なら60〜72cm程度の範囲で調整できることが「望ましい」。椅子の座面は37〜43cm程度で調整できることが望ましく、ここに実務で役に立つ一文が添えられています。座面の高さとは、実際に座ってクッションが2〜3cm沈んだ状態の高さのことで、市販の椅子のカタログ表示は沈む前の外形の高さが一般的なので「注意を要する」。つまり、カタログに書かれた座面高と、体が実際に乗る高さは同じではありません。デスクで言えば、組み上がった天板がカタログからずれるのと同じ構図です。
順序についても解説ははっきりしていて、高さを変えられる机では、まず椅子の高さを最適に合わせ、そのあとで机を合わせるとよい、としています。人間工学上の細かな要求事項は、JIS Z 8515を参照するよう書かれています。
740mmは、どんな体から決められたのか
EN 527-1は、自分の寸法がどこから来たかを明記しています。基準は欧州のオフィス利用者で、下は女性の5パーセンタイル、上は男性の95パーセンタイル、身長にして1493mmから1913mmまで。そのあいだの人に、740mmの固定デスクと、座り作業なら少なくとも650〜850mmを動く昇降デスクを割り当てています。
では日本の体はどこにいるのか。世界の身長を一世紀分推計した研究グループNCD-RisC(学術誌eLife、2016年)のデータでは、1996年生まれの平均身長は日本の男性が170.8cm、女性が158.3cm。同じ年に生まれたイタリア人は男性177.8cm、女性164.6cmで、差は男性で7.0cm、女性で6.3cmあります。日本人はこの百年で大きく背を伸ばし、1896年生まれと比べると男性で14.7cm、女性で16.0cm高くなりました。ただ同じ研究は、その伸びが1960年代初めより後に生まれた世代で止まったと書いています。1960年生まれの男性が170.1cm、1980年生まれが171.5cm、1996年生まれが170.8cm。いまオフィスで働いている世代は、ほぼ同じ背丈のまま、欧州の体に合わせた740mmの前に座っていることになります。
数字を並べておきます。
欧州規格EN 527-1、固定デスク:740mm(許容720〜760mm)
厚生労働省ガイドライン解説、固定の机:おおむね65〜70cm(女性65cm、男性70cm)
欧州規格、昇降デスクの座り作業:少なくとも650〜850mm
厚生労働省ガイドライン解説、高さ調整できる机:60〜72cm程度
厚生労働省ガイドライン解説、椅子の座面:37〜43cm程度(クッションが沈んだ状態で)
欧州規格の許容範囲の下限でさえ、日本の男性の目安を2cm上回っています。
合わせる道具は、椅子と足台です
高い天板に対して人ができることは、座面を上げることです。すると、ガイドラインが基本姿勢とする「履き物の足裏全体が床に接した姿勢」を保てない人が出てきます。だからガイドラインは、十分な広さがあって滑りにくい足台を必要に応じて備えるよう求め、解説でも、椅子の調整範囲で合わせきれないときはフットレストの利用などで対応するのが望ましいとしています。米国の労働安全衛生局OSHAも、天板を下げられないなら椅子を上げ、必要なら足台を、と同じ手順を示しています。欧州製のデスクを日本の執務室に入れるとき、見積もりの最初に考えるべきなのは、座面の調整幅に余裕のあるタスクチェアと、足台が要る人がどれだけいるか、です。
昇降デスクなら解決するかといえば、確かめる場所が変わるだけです。欧州規格が座り作業で求めるのは650mmまで下がることで、厚生労働省の解説が望ましいとする60cmまでは求めていません。背の低い方が使う席では、上限よりも下限をメーカーの資料で確認してください。
ガイドラインは、座るだけでなく「時折立位を交えて作業することが望ましく」とも書いています。ただ、昇降デスクの効果には限度があります。コクラン・レビュー(2018年)によれば、昇降デスクは座っている時間を最初の3か月で1日あたり約100分、3〜12か月で約57分減らしましたが、エビデンスの質は低く、12か月より先のデータはありません。英国の病院職員を対象にした試験(BMJ、2018年)では12か月後も1日83分の差が残りましたが、デスクと一緒に講習やフィードバック、コーチングを組み合わせた場合の結果です。
役員室のデスクは、また別に見る必要があります。エグゼクティブデスクの高さはモデルごとに違うので、仕様書で一台ずつ確かめます。以前、とても背の高いお客様がいらっしゃいました。一度デスクを替え、最後はメーカーに特注で作ってもらいました。私たちはメーカーではありませんから、作ったのはメーカーです。体に合わないときの答えは、標準品のなかだけにあるとは限りません。
痛みの統計と、デスクの責任の範囲
厚生労働省の2022年国民生活基礎調査では、自覚症状のある人の症状として、男女とも「腰痛」が最も多く、「肩こり」がそれに続きます。職場でも、腰痛は休業4日以上の職業性疾病のおよそ6割を占めると厚生労働省は説明しています。ただしこれは、重量物の取り扱いや立ち作業、座作業を含むあらゆる職種の数字です。デスクの高さに原因を押しつけるのは正確ではありません。欧州労働安全衛生機構の2019年の報告も、調査データからは座ること自体が筋骨格系の障害のリスクを高めるとは確認できないとしています。だからこそガイドラインは、痛みの統計ではなく、一人ひとりの「体形にあった高さ」を求めているのだと私は読んでいます。
見積もりに書いておく一行
現場で典型的な誤りは、天板を水平に出さず、アジャスターを調整しないままにしておくことです。カタログとの差が5cmあれば、740mmのデスクは690mmにも790mmにもなり、20mmの許容差は意味を失います。ガイドラインは、椅子や机の調整状況を定期に点検するよう求めています。点検の出発点になる数字は、組み上がったあとに測った高さです。発注書や仕様書には、カタログ寸法に加えて「据付後、天板を水平に調整したうえで高さを実測し、席ごとに記録すること」と一行入れておくと、その記録が点検の最初のページになります。
そして見積もりは、人から始めます。誰が座るのか、身長はどれくらいか、一日に何時間使うのか、その席は本人専用か、交替で使うのか。ガイドラインも、複数の人が交替で同じ椅子を使うなら、高さの調整が簡単で、調整中に座面が落ちない構造であることを求めています。ベンチデスクのように何人もが同じ天板に並ぶ席で、その天板の高さが変えられないなら、一人ひとりが自分で合わせられる椅子が、その席の高さを決めることになります。何十席もまとめて入れるときの考え方は、ワークステーションは艦隊として買うにまとめました。
数字は二つの国から届きます。けれども最後に測るのは、組み上がった天板と、そこに座る一人の体です。据付の日には、メジャーを一本持っていってください。
短く答えると
オフィスデスクの標準的な高さは何cmですか? 欧州規格EN 527-1:2011では固定デスクが740mm、許容差は上下20mmです。厚生労働省のガイドライン解説は、日本の固定の机についておおむね65〜70cmが望ましいとしています。
厚生労働省のガイドラインは机の高さを義務づけていますか? 本文が求めているのは「作業者の体形にあった高さ」です。65〜70cm、調整式なら60〜72cmという数字は解説に書かれた「望ましい」目安で、ガイドライン自体も法律ではなく通達です。
イタリア製のデスクは日本人には高すぎますか? 合わせ方があります。EN 527-1どおりの固定デスクの740mmは、厚生労働省の解説が示す男性の目安より4cm、女性の目安より9cm高い数字です。座面の調整幅が十分な椅子と、必要な人には足台を組み合わせます。昇降デスクなら下限を確認し、役員用のデスクは高さがモデルごとに違うので仕様書で確かめます。標準品で合わなければ、メーカーに特注する道もあります。
昇降デスクを選ぶときは何を確認しますか? 背の低い方が使う席では、いちばん低い位置です。欧州規格が座り作業に求める下限は650mmで、厚生労働省の解説が望ましいとする60cmよりも高くなっています。
組み立てたデスクの高さはカタログどおりになりますか? ふつう3〜5cmの差が出ます。天板を水平に出してアジャスターを調整し、据付後に実測して記録するのが確実です。